PROMISE TO YOU

Promise to you

いつか終わる夢を紡ごう。
けして叶わない約束を交わそう。
・・・・・・おまえと。



重ねた唇の甘さに、らしくもなくめまいを起こしそうになる。
しかし、相手が緊張に身体をこわばらせているのに気付き、肩を揺らせて小さく笑った。
「何、固まってんだよ?」
「・・・だって・・・」
にやりと口元を歪ませると、少女は赤く染まった頬で、それでも反論しようとした。
しかし結局それは叶わず、彼女は恥ずかしそうに口をつぐむ。
青年は再び喉を鳴らして笑うと、少女の華奢な身体をそっと抱き寄せた。
身じろごうとする身体をやんわりと、しかし有無を言わさず押え込んで、彼は少女の髪に顔を埋めた。
甘い髪の匂いに、酔うように瞼を伏せる。
自分は一体、何をしているのだろう。
いや、そもそも何がしたいのか。
何が、したかったのか。
嘘と真実が入れ替わっていく現実の中で、それでも過去にこだわる自分は愚かなのだろうと思う。
けれど、それを捨てるにはあまりにも時が経ちすぎていた。
今更生き方を変えたところで、どうにかなる訳がない。
だからなのかもしれない。
破滅しかないと分かっていながら、今こうやって天使にすがっているのは。
「アリオス・・・?」
偽りの名を呼ぶ声に、抱く腕に力を込める事で答えに代える。
小さな手が、そっと月の光を宿す髪を剥いた。
「・・・どうしたの?」
「何がだ」
「・・・泣いてるの?」
「・・・クッ・・・」
青年は肩を揺らせて笑った。
笑うしか出来なかったといってもいい。
その反応に少女は戸惑った様だったが、機嫌を損ねたりはしなかった。
相変わらず、優しく青年の髪を剥いている。
「俺のどこが泣いてるって?」
「だって、そう見えたんだもの・・・」
自分を抱きしめる腕が、何だか行き場をなくした子供のようで。
まるで、泣いているようだった。
そう告げる少女に、青年は内心ため息をつく。
その通りかもしれない。
運命に抗って、結局は抗えないでいる自分。
それはまるで、幼い子供のようだ。
少女は・・・このどこまでも無垢な天使は、無意識の内に気付いているのかもしれない。
自分が何者であり、この先に何が待っているのか。
それとも、だんだんと自分が嘘を付けなくなっているのか。
ーーーどちらでもいい。
どちらにしても、別れはすぐそこに迫っているのだから。

「ねぇ、アリオス・・・」
再び何か言いかけた唇を、その唇でもって塞ぐ。
一度離れた唇は、しかしすぐさま角度を変えて、三度重ねられた。
今度は、深く。
そのまま背後にあった寝台へと、少女の身体を押し倒した。
彼女は一瞬身体を震わせたが、抵抗はしなかった。
首筋へと唇を滑らせ、その柔らかな感触を確かめる。
背に回された細い腕が、とても優しい。
それが嬉しい反面、どこか虚しかった。
ーーーいつか必ず終わるこの関係とこの行為に、何か意味があるのか?
意味も理由もない。
あってはいけない。
ただ一つあげるとするならば、刻み付けたかったのかもしれない。
それぞれの魂に、互いの存在を。

ーーーいつか終わる二人だったからこそ、覚えていてほしかった。
清廉な天使に恋をした、愚かな悪魔の存在を。
全てが終わった、その後もーーー・・・・・・

約束は、果たせない。



人ごみの中に懐かしい姿を見たような気がして、少女は振り返った。
次元の狭間の大陸の育成を初めて、随分と時間が経っていた。
今ではかなり人も増えてきている。
大陸に笑顔が溢れようとしている、そんな矢先だった。
彼を見たような気がしたのは。
だが、振り向いた先には結局、探す人物を見付ける事は出来なかった。
期待があっただけに落胆も大きい。
大きな海色の瞳に影を落とし、少女はその場を立ち去った。

「ーーーえ・・・?」
「だからね、第1エリアに現れたあの大きな木があるトコ、集めたデータによると、『約束の地』って言うらしいよ」
「・・・約束の・・・地?」
とある日の午後、親友からの報告に、少女は胸の前できゅっと手を握り締めた。
何故か心が騒ぐ。
「結構きれいなトコらしいし、今度行ってみたら?」
「今から行っちゃ、駄目かな?」
親友であり補佐官である彼女は、一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに笑った。
「いいんじゃない?今日はもう予定入れてないし」
少女は安心したような微笑を親友に向けた。

最初は歩いていたはずだった。
だが聞いていた木が立っているのが見え始めると、いつのまにか走りはじめていた。
いつか、二人で交わした約束。
それは果たされる事はなかった。
けれど、それを今も信じている自分は愚かなのだろうか。
青年が聞いたら笑うかもしれない。
いや、笑って欲しい。
あの頃の様に。
自分をからかって、呆れたように。

ただーーー逢いたい。

息が弾む。
心が急ぐ。
大きな木の下で、陽の光を受けた銀髪が揺れた。
それを認めて、少女は笑った。
嬉しかった。涙が出そうになった。
しかしそれを何とか押え込んで、青年の名を唇に乗せる。
「アリオス!」
ぴくりと青年の肩が震えた。
ゆっくりと視線がこちらへと移される。
驚きにわずかに見開かれた金と翠の瞳のその奥で、懐かしい光が揺れていたーーー



けして終わらない夢を紡ごう。
いつか叶う約束を交わそう。
・・・・・・あなたと。

FIN




コメント

いかがだったでしょうか〜。びくびく。
天空の部分だけで終わらせとけば良かったです。知らないのに無理矢理トロワの部分を入れてしまいました。うーん。色々とあらがあると思います。お許し下さい〜
いや、「約束の地」と言うのを見た時に「何てアリオスとアンジェにぴったりの場所なんだ!」と思った事がきっかけです。
しかし、うちのアリオスさん(特に天空設定)、何てネガティブな思考のやつだ。
感想とかいただけるとすごく嬉しいです。



from tink with love
タチキ様、ステキな創作有難うございました。
リクエスト通りのステキな創作で、私、ホントに、あんなアリオスのお礼に、この素晴らしい創作を頂いていいのかと、真剣に思いました。
「天空」サイドのアリオスの切なさが伝わってきて、こちらまでも切なくなりました。
「トロア」未プレイだそうですが、「トロア」に出てくる、「天空なアリオス」の雰囲気、凄く出ていましたよ。
HPを立ち上げられた暁には、是非、相互リンクをさせて下さい!!